GEORGES BATAILLE

フランスの思想家、小説家、詩人。中部フランスのビヨンに生まれる。最初聖職を志したが、思春期を境に徹底した無神論者に転向。

苦痛と歓喜、エロティックな陶酔と神なき法悦境の陶酔が一つに結びつく、〈両極端の一致〉という逆説的な考え方にバタイユの思想は貫かれており、小説、詩、評論、美術批評、経済学、社会科学などなど、百科全書的領域にまたがる諸著作はすべて、彼の思想体系の断片的一翼と見ることもできる。

私の記憶に跡をとどめているひときわ著しいふたつのイメージが、せいぜい猥褻な場面を私が追求し出したとたんに、それとは見分けがたい形で浮かび上がってきたのだ。(P137)

父は鷹の嘴のようにとんがった、痩せこけた顔のなかにおさまった、たいそう大きく見開いた眼をしていた。彼が小便する際には、たいてい、その眼はほとんど白眼に変わり、同時にそれは物狂おしい表情を浮かべるのだった。己以外には見えぬ世界のほかに対象を持たず、そしてその眺めは彼からうつろな哄笑を呼びさますのだった。ところで、私が「玉子」のイメージに結びつけるのは、この白い「眼玉」のイメージである。物語のなかで、「眼玉」や「玉子」について語るとき、自然に尿が思い浮かぶのだ。(P138)

人間存在はひとりで生まれ、ひとりで死ぬ。ある人間存在と他の人間存在との間には、深淵があり、非連続性がある。

有性生殖という形態においては、存在の非連続性はそれほど脆弱なものではない。死んでも非連続の存在は完全には消滅せず、無限に存続するかとも思われる痕跡を残す。骸骨は何百万年も存続し得るのだ。挙句の果てには、有性の存在は、自分の中にあるかも知れない非連続の原理の不滅製を信じたいような気分になり、さらに信じざるを得ないような羽目に追いこまれる。(P141)