ジャン・コクトー: 阿片―或る解毒治療の日記

阿片―或る解毒治療の日記 (角川文庫)

阿片―或る解毒治療の日記 (角川文庫)

人間の心のうちには、定着用の護謨糊みたいなものが存在する。つまりそれは理性より強い虚妄な感情であって、それが彼に、ああして遊んでいる子供達は、一寸法師の後裔であって、やがて大人を追い出してそれに取って代ろうとしている、明日の大人ではないと思いこませたりするのだ。
それなのに、生きることは実に水平的墜落だ。
だから、この定着用の護謨糊がない場合、完全にまた不断に自らの速度を意識する生活は堪え難いことになる筈だ。幸にこれあるが為に、死刑囚も眠ることが出来るのだ。
ところが、この定着用の護謨糊が僕には欠如している。(P22)

何等の機械的動作も、何等の意識的記憶も、干渉する余地のない速さで、日常の用品を理論的に及び實際的に思いもよらぬ用い方に應用する者が天才だ。(P129)

夢の活語は現の死語だ……。通訳と翻訳が必要だ。(P189)