グスタフ・マイリンク: ゴーレム

グスタフ・マイリンク / GUSTAV MEYRINK | 1868-1932 AUSTRIA

オーストリアの作家。プロテスタントから仏教へ改宗。オカルティズムや錬金術に関心を抱き、長年暮らした古都プラハの神秘的な雰囲気の中から、小説『ゴーレム』、『緑の顔』など、幻想的な怪奇文学を生み出した。グロテスクで荒唐無稽な空想の中には、転換期における市民社会や官僚世界の物質主義、合理主義の俗物に対する挑戦的な風刺が見いだされる。

ゴーレム

ゴーレム

いまぼくは見知らぬ訪問客がどんな恰好をしていたか知っていた。それを感じようと思いさえすれば――いつなんどきでも――ぼくのからだで感ずることができただろう。しかしかれの恰好を思い描くこと、つまりぼくの目のまえに面と向かってそれを見ること――それはあいかわらずできなかった。それはいつまでたってもできないだろう。(P26)

ぼくは、この家並みに影法師のように住む不思議な人々を心のなかに思い描いた。――母親から生まれたのではなく――その考えることやすることを見ていると、なにか木切れか土くれからでたらめにつくられたかのように思われるその不思議な生きものたちがぼくのまえを通り過ぎていく。(P30)

タロックには切札が二十二枚――ちょうどヘブライ語のアルファベットの数だけあるということに、あなたは一度も気がつかれなかったんですか? わたしたちのボヘミアのカードには、おまけに、見るからになにかの象徴だろわかる絵まで、つまり愚者、死、悪魔、最後の審判なんかが描かれているでしょう?――いいですか、あなたは、だからほんとは、人生があなたの耳に答えを叫びかけるのを、大声で求めておられるのじゃありませんか?――――むろん知る必要もないことでしょうが、『タロック』とか『タロット』というのは、ユダヤの『トーラ』つまり律法とか、エジプト語の『タルト』つまり『問いかけに答える女』とか、大昔のペルシア語の『タリスク』つまり『わたしは答えを求める』などと同じ意味の言葉なんです。――学者たちは、タロックがカール六世(神聖ローマ皇帝ボヘミア、ハンガリア両国王、在位一七一一−一七四0)の時代にできたということを考証するまえに、このことを知るべきだと思いますね。(P144)

淫楽殺人を犯したときは、わたしに選択はあたえられていなかったのです。完全に明瞭な意識のもとで行動していたにもかかわらず、わたしに選択はあたえられていなかったのです。(P325)