アーシュラ・K・ル=グィン『ゲド戦記』

ゲド戦記 全6冊セット (ソフトカバー版)

ゲド戦記 全6冊セット (ソフトカバー版)

映画はまだ観ていないが時事ネタということでその原作について。スタジオ・ジプリの宮崎駿監督はこの本の中にジプリ・アニメの全てがあると作者に告白し制作をはじめたらしい。『影との戦い』『こわれた腕環』『さいはての島へ』の三編からなるこの物語は、一貫してゲドという一人の魔法使いを中心に展開する。ゲドの修行時代の物語である第一部『影との戦い』には、現代思想の盲点を風刺したかのような下記の興味深い言葉が書かれている。

「宇宙には均衡、つまり、つりあいというものがあってな、ものの姿を変えたり、何かを呼び出したりといった魔法使いのしわざは、その宇宙の均衡をゆるがすことにもなるんじゃ。わしらはまず何事もよく知らねばならん。そして、まこと、それが必要となる時まで待たねばならん。あかりをともすことは、闇を生み出すことにもなるんでな」

ゲドはゴント島の鍛冶屋の息子として生まれたが、幼いころから魔法を使う能力にすぐれ、呪い師の伯母から数かずの呪文を学んだ。ある日、野蛮なカルガド人がゲドの町に奇襲をかけ、まだ少年だったゲドは霧を呼ぶ呪文を使って見事にこれを撃退する。だが持てる力をすべて出しきってしまった少年はうつけのようになっていた。彼を救い、ゲドという真の名を与えてくれたのは偉大なる魔法使いオジオンだった。

ゲドはオジオンの弟子となるが、期待に反し魔法使いは少しもはなやかな術を教えてくれず、ゲドは魔法使いの学校のあるローク島へ渡る。ローク島の学校で優等生となったゲドはライバルの挑発にのって禁じられた死者の魂を呼びだす術を試みてしまう。術が成功したかに見えたその時、世界の闇と光の均衡が破れ、黒く恐ろしい影がゲドに襲いかかった。かけつけた魔法使いの長たちの力で均衡は回復し、ゲドも命をとりとめるが、ゲドの行為はその黒い影をこの世界に放ってしまった。

悔い改め、一人前の魔法使いとなってからも影は執拗にゲドを追いまわしたが、その黒い影を自分の分身としてしっかりと受けとめたことで均衡は回復された。

ex:

私は幼少時代に腕の肉をつまみ細胞を潰すことで、それらひとつひとつに内在する小宇宙が死滅するのをよく妄想していた。現在は妄想で世界を塗り変えていると(id:waterdragonさんから)いわれるが、偶に浴槽にナトリウムのたっぷり含まれた岩塩を1キログラム入れ瞑想や願掛けをしているのできっとそのせいだろう。ただ最近では、妄想と現実の区別がつかないというよりは、妄想こそが現実なのだと真面目に思えてきた。そうでなければ後悔してもしきれない。

"見えぬものこそ"

ゲドより