ホルヘ・ルイス・ボルヘス『パラケルススの薔薇』

今年は知人に本を貸すことが多く、この本も読み返そうか悩んだ末に結局投げだした。アルケミストの繁栄から失墜への歴史を紐解いた一冊。私は、かつて天界で最も美しく、神から窮愛された熾天使が失墜の後に辿るエピソードを知らない。未知なるものはやがて恐怖へ転じ、ゆくゆくは未来を予期不安で覆ってしまう。ならば異教徒の本を焚書するみたく人の手に委ねてしまえばよい。

私は十代のころ、かの熾天使に同情を禁じえないうちに魅入られてゆき、形を変えて世に再創生することを固く誓った。偏った右目に映る星の光のプリズムは運命を捻じ曲げ、影は後ろへ長く長く伸びて未来を塗り替えてくれる。自身の真骨頂と呼んで恥じないものをどうかどうか創出したい。本当に愛されていたし、そして本当に寂しかった。

師は薔薇をいったん焼き、その術を用いて、灰のなかからそれを蘇らせることができるとか。その奇跡を私に見せていただけませんか? お願いいたします。そのあとなら、この命を捧げることも厭いません。

おまえは思い違いをしている。まさか、存在するものが無に帰し得ると思っているのではないか? 楽園の最初の人、アダムは一輪の花を、一本の草の茎を消すことができたと、そう思っているのではないか?

わしが言うのは、神が天空と大地、われわれのいる見えざる楽園を造られるおりに用いたが、原罪によってわれわれの目から隠されてしまった道具のことだ。つまり、カバラの知識を授けてくれる<御言>のことだ。

パラケルススは一人になった。ランプを消し、使い古した肘掛け椅子に腰を下ろす前に、わずかな灰を手のひらにのせて、小さな声である言葉を唱えた。薔薇は蘇った。