夢日記

実家の天井の極端に低い屋根裏部屋が舞台だった。小さく開かれた窓から薄く青い光が差し込んでいて、埃を被ったシャンデリアと市松人形と風神雷神の像がある。僕は子供の頃その部屋が恐くて近寄れなかった。まだ両足で立てず微かな光しか感じ取れない頃はその部屋を虫のように這い回っていた。油彩の画と夕陽の光が網膜にきつく焼きついている。本来はないはずの古いテレビが、白い光を黒いベッドのシーツに落としていて、男性と女性が交わっている。絶頂に達すると女性は足の指を一本ずつ失わなければならないといった慣習があり、簪をつけた女性は眉間に皺を寄せ、赤い血をその第一関節から垂れ流し、中指と薬指とを喘ぎながら失っていた。2人とも蜥蜴のような皮膚をしていた。萌えた。

なるほど、階段は二十六段あった。フェレオルは案内人とともに階段をのぼりながら、この階段には手すりはないが、その左右に大理石で掘ったAからZまでの巨大な文字が、中庭の石畳から二階のバルコニーまで蜿蜒と続いていて、これが手すりの代りになっていることに気がついた。完璧への配慮からか、名人の手すさびか、才気縦横なイエズス会修道士は、この階段の各段の幅を、それに対応する文字のイタリア語における頻度数に比例して算出していた。(P47)

次いで私は、私の木質の肉のあらゆる繊維のなかに、何かちくちくするような感じをおぼえた。そして、私の身体を覆っていた白い微細な貝殻の一つ一つが、美しい緑色の巴旦杏の芽に変るのを眺めた。それらの芽はただちに割れて、鮮かな深紅色の、何か皺くちゃなものをさらけ出した。私は自分の身体が花だらけになったと信じて、眼をさました。(P117)

私は夢のなかで、切り立つような岩礁を登攀し、岩礁の傾きで、海鳥の巣のなかに、一個のきわめて大きな薔薇色の卵を発見した。私はこの卵を、あたかも友人を傷つけるか、あるいは忠実な獣を殺すかでもするような気持で割った。私はそのとき岩角の斜面の、不安定な位置にいたので、殻が割れると同時にどっと迸り出た乳汁の洪水を避けることができなかった。私のセーターはびっしょり濡れた。そして私は鼻をつまんだ。この乳汁は、死の匂いがしたからだ。(P123)

アンドレ・ピエール・ド・マンディアルグ著『大理石』 MARBRE より